「世界でいちばんNGな恋」現代版人情噺


世界でいちばんNGな恋 初回限定版

世界でいちばんNGな恋 初回限定版


「ままらぶ」のようなアメリカンホームコメディではなく、落語の人情噺。あぁ、愛すべきダメ人間たちよ……。



ご隠居がことある毎に落語の語りを引用していますが、本作はジャンル分けをするならばそれがピッタリな作品でした。
熊さんに八さん、ご隠居に大家さんと落語の登場人物を現代風にアレンジしたような一癖も二癖もあるキャラも出てきますし。
彼らのやり取りには主人公とヒロインの愁嘆場が霞んで見えるほどに目を奪われて笑い転げられました。


また、丸戸さんの前作「この青空に約束を―」の「つぐみ寮」で描かれていたような主人公を中心とする息の詰まりそうな共同生活ではなく、程よい距離感で居心地のいい正しく落語に出てくる長屋のような「テラスハウス陽の坂」を作品の舞台にしたこともそう感じる一因でしょう。



さて、肝心の本編の内容ですが、冒頭にも触れましたようにどいつもこいつもダメ人間っぷりが光っています。
丸戸さんの手がけるシナリオはヒロインにダメ人間が登場することが多いですが、本作は登場キャラ全てが色んな意味で本当にダメ人間なのは珍しい。
「こんな連中でも毎日楽しく生きていけるんだ」と逆に勇気付けられます。
……こんな連中だからこそ毎日楽しく生きていけるのかもしれませんが。


ヒロインはヒロインで、してはいけない恋に目覚めてしまった者、別れた旦那に未練たらたらな者、頼られることに快感を覚える者、度を過ぎたシスコン人生まっしぐらな者と「あんたら、いい大人なんだから……」とため息をつきたくなるものばかり。
だけれども、そのダメっぷりに惹かれてしまう人間はそれに輪をかけてダメ人間なのでしょう。
うん、それに惹かれる主人公もユーザーもダメ人間ばかり(笑)



愁嘆場でキッチリと「サゲ」を用意して必要以上に暗い雰囲気にならないように配慮し、ラストでもオチを用意して「人情噺」を貫いたライターの腕は見事というほかありませんでしたが、肝心の愁嘆場があまりにも重い設定にしすぎたのは戯画に長年浸かり続けて「めんどくさい設定」を書き続けた反動でしょうか。
もう少し軽めの設定で描き「落語」として完成させていたならば、もう少し高めの評価を与えていました。



設定が重いことをのぞけば十分笑って楽しめる作品であり、ライターとメーカーには今後ともこの路線にも力を注いでいただきたい。